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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)13119号 判決 1987年3月30日

原告 東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 石川實

原告 安田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 後藤康男

原告 大正海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 石川武

原告 住友海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 徳増須磨夫

原告 日新火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 松室肇

原告 日動火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 佐藤義和

原告 日本火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 川崎七三郎

原告 千代田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 川村忠男

原告 同和火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 永田峻陽

原告 興亜火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 赤城海助

原告 富士火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 葛原寛

原告 日産火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 本田精一

原告 共栄火災海上保険相互会社

右代表者代表取締役 行徳克己

原告 大東京火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 塩川嘉彦

原告 大成火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 佐藤文夫

原告 第一火災海上保険相互会社

右代表者代表取締役 西原直廉

原告 朝日火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 田中迪之亮

原告 東洋火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 高雄榮藏

原告 太陽火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 遠藤喜代志

原告 大同火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 上江洲由正

右二〇名訴訟代理人弁護士 山岸良太

同 飯田隆

右訴訟復代理人弁護士 古曳政夫

被告 山久不動産株式会社

右代表者代表取締役 菅澤一郎

被告 菅澤一郎

被告 菅澤政司

被告 渡辺茂

右四名訴訟代理人弁護士 平田達

同 久保田実

右平田達訴訟復代理人弁護士 小林和彦

被告 平田諦

右訴訟代理人弁護士 湯本岩夫

被告 赤川信雄

被告 榎本政雄

主文

一、被告山久不動産株式会社、同菅澤一郎、同菅澤政司、同平田諦は、各自、各原告に対し、別表1(請求金額一覧表)(ア)欄記載の金員及びいずれもその内金である(イ)、(ウ)各欄記載の各金員に対する同各欄記載の年月日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らの被告赤川信雄、同榎本政雄及び同渡辺茂に対する請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用中、原告らと被告山久不動産株式会社、同菅澤一郎、同菅澤政司、同平田諦との間に生じたものは同被告らの負担とし、原告らと被告赤川信雄、同榎本政雄及び同渡辺茂との間に生じたものは原告らの負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告らは、各自、各原告に対し、別表1(請求金額一覧表)(ア)欄記載の金員及びいずれもその内金である(イ)、(ウ)各欄記載の各金員に対する同各欄記載の年月日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は被告らの負担とする。

3. 第1項につき仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告らの請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 当事者

(一)  (原告ら) 原告らは、いわゆる住宅ローン保証保険等の損害保険を業として営む会社である。

(二)  (被告ら)

(1) 被告山久不動産株式会社(以下「被告山久」という。)は、不動産取引及び宅地造成を業とする株式会社である。

(2) 被告菅澤一郎(以下「被告一郎」という。)、被告菅澤政司(以下「被告政司」という。)、被告平田諦(以下「被告平田」という。)、被告赤川信雄(以下「被告赤川」という。)、被告榎本政雄(以下「被告榎本」という。)及び被告渡辺茂(以下「被告渡辺」という。)は、次のとおり、被告山久の役員又は従業員であったものである。

ア 被告一郎

昭和四八年 代表取締役就任

昭和五三年五月一五日 同辞任、以後取締役

昭和五四年四月二五日 代表取締役就任

イ 被告政司

昭和四八年 取締役就任

昭和五三年五月一五日 代表取締役就任

昭和五四年四月二五日 同辞任、以後取締役

ウ 被告平田

昭和五三年五月 取締役就任

エ 被告赤川

昭和五三年四月頃 入社

昭和五四年八月 取締役就任

オ 被告榎本

昭和五三年四月頃 入社

昭和五四年八月 取締役就任

カ 被告渡辺

昭和四八年 監査役就任

2. 住宅ローン保証保険及びその運営

(一)  住宅ローン保証保険契約(以下「住宅ローン保証保険」という。)とは自宅居住用不動産の購入者が、その購入資金に充てるため、金融機関と締結する金銭消費貸借契約に基づく債務(いわゆる住宅ローン。以下「住宅ローン」という。)の支払を保証するための保険契約であり、その当事者等は左記のとおりである。

保険者 保険会社

保険契約者 購入者 (住宅ローンの債務者)

被保険者 金融機関 (住宅ローンの債権者)

保険金額 融資金額

保険期間 融資期間

(二)  原告らは、相銀住宅ローン株式会社(以下「相銀住宅ローン社」という。)が住宅ローンの融資をなすにあたって、右住宅ローンの支払を保証すべく、保険者として住宅ローンの債務者との間で住宅ローン保証保険契約を締結しているものであるが、右保険の引受、保険金支払の仕組みについては、次のとおり定められている。

(1) 相銀住宅ローン社は、同社が、審査のうえ、住宅ローンの融資を実行することに決定した自宅居住用不動産の購入者をして、原告らに対し、相銀住宅ローン社経由で、所定の住宅ローン保証保険申込書によって住宅ローン保証保険の申込をなさしめるものとし、原告らは、右申込を受けた場合は、異議なくこれを引き受けるものとする。

(2) 各原告の分担割合は別表2(分担割合表)記載のとおりとする。

(3) 保険契約者が、住宅ローンの返済金の支払を怠り、住宅ローンについて期限の利益を喪失した場合には、保険者たる原告らは、住宅ローン保証保険契約に基づき、右住宅ローンの残債務全額を保険金として相銀住宅ローン社に支払う。

但し、実務上、右保険金の支払及びこれによる保険代位にかわる処理として、原告東京海上火災保険株式会社(以下「原告東京海上」という。)が、幹事会社として、原告らを代表して、同社名義にて、保険金支払に代えて、相銀住宅ローン社に対し、右住宅ローンの残債務額を債権譲渡代金として支払い、住宅ローン融資債権を抵当権付で譲り受ける方法が採られている。

3. 被告らの詐欺による不法行為

(一)  欺罔行為

(1) 住宅ローン(前記2のとおり、住宅ローン保証保険と一体となっていることから、以下「住宅ローン保証保険付住宅ローン」ともいう。)の融資対象となる購入土地は、住宅用として適性な土地(以下「宅地適性地」という。)に限られている。

(2) 被告らは、右(1)の事実を知りながら、別紙土地目録一ないし一一記載の各土地(あわせて、以下「本件各土地」という。)について、真実は、これを宅地適性地とする意思がなかったのにかかわらず、昭和五三年一〇月頃から翌五四年二月頃までにかけて、別表3(住宅ローン融資契約一覧表)の債務者名欄記載の債務者(本件各土地の購入者ら。以下「本件購入者ら」という。)に対し、本件各土地を宅地適性地として販売する一方、同人らに相銀住宅ローン社を住宅ローン申込先として紹介し、昭和五三年一一月頃から翌五四年三月頃までにかけて、同人らをして、相銀住宅ローン社に対し、本件各土地が極めて近い将来宅地適性地となるかのごとく表示をした住宅ローン保証保険付住宅ローンの申込書を提出させて、相銀住宅ローン社の決済権者である本店営業部の長野次長をして、その旨誤信させた。

(3) さらに、被告らは、昭和五三年一二月上旬、相銀ローン社の担当者らを本件各土地に案内し、その際、真実は、宅地の開発、分譲に関する公法的諸規制を無視して、杜撰なみせかけの工事のみを行っていたのにもかかわらず、あたかも宅地造成工事を行っているかのごとく装って、同担当者らをして、本件各土地について宅地造成工事が進行中であるものと誤信させた。

(二)  錯誤に基づく処分行為

前記(一)(2)、(3)の欺罔行為により、長野次長は、昭和五四年二月中旬には本件各土地が宅地適性地になったものと誤信し、右誤信に基づき、同年二月中旬から三月下旬にかけて、別表3の融資内定日欄記載の日に同表融資額欄記載の本件各住宅ローンの融資を内定し、続いて、同年三月上旬から四月中旬にかけて、同表融資実行日欄記載の日に右各融資を実行し、その結果、原告らは、前記2(二)の規定に従い、右各住宅ローンについて、自動的に、右各住宅ローン融資実行の日である別表4(住宅ローン保証保険契約一覧表)の契約締結年月日欄記載の日に、同表保険金額欄記載の住宅ローン保証保険を引き受け(あわせて、以下「本件各保険契約」という。)、相銀住宅ローン社に対して各保険金支払債務を負担するに至った。

4. 損害の発生

(一)  本件購入者らは、別表3記載の各住宅ローン融資契約(あわせて、以下「本件各融資」という。)に基づく債務の支払を、同表支払遅滞日欄記載の日以降怠り、同表期限の利益喪失日欄記載の日において、期限の利益を喪失した。

(二)  そこで、原告らは、2(二)(3)但書の方法により、幹事会社たる原告東京海上において、原告らを代表して、相銀住宅ローン社に対し、別表5(債権譲渡代金支払一覧表)の支払総数欄記載の金員の支払をなした。従って、原告らは、別表2記載の分担割合に応じて、それぞれ別表1記載のとおりの損害を被った。

5. 因果関係及び損害の発生の予見

本件購入者らが前記4(一)のように住宅ローンの支払を怠るに至ったのは、同人らが、本件各土地の購入時において、購入土地が近い将来においても宅地適性地とならないことを知らなかったとすれば、土地が宅地適性地でなかったことが判明して支払意思を失ったためであるし、又、購入当初から右事実を知っていたとすれば、当初から誠実な支払の意思はなかったためであるということができるから、被告らの欺罔行為と原告らの損害の発生との間には、相当因果関係がある。そして、被告らは、前記3の各欺罔行為をなした時点において、早晩本件購入者らが住宅ローンを支払わなくなり、ひいて原告らに前記4の損害が発生することを予見していたか、又は予見すべきであった。

6. 被告らの責任

(一)  被告一郎の責任

被告一郎は、前記3記載の不法行為(以下「本件住宅ローン保証保険詐欺」という。)当時の被告山久の取締役であり、本件住宅ローン保証保険詐欺の首謀者であって、かつ、終始これを直接実行したものである。

よって、被告一郎は、右不法行為を首謀し、遂行したものとして、民法七〇九条に基づき原告らに対して損害賠償責任を負う。

(二)  被告政司の責任

(1) 民法七〇九条に基づく責任

被告政司は、被告一郎の息子であって、被告山久の代表取締役として、本件住宅ローン保証保険詐欺を実行したものである。

よって、被告政司は、被告一郎とともに、前記不法行為を遂行したものとして、民法七〇九条に基づき原告らに対して損害賠償責任を負う。

(2) 商法二六六条ノ三に基づく責任

仮に、被告政司が、本件各土地に関する取引をはじめとする被告山久の業務に一切関与していなかったとすれば、被告政司は、被告山久の代表取締役として、取締役の職務遂行上の不正行為を未然に防止すべき職務上の任務があるのに、重大な過失によりこれを懈怠し、よって、被告一郎の本件住宅ローン保証保険詐欺により、原告らに損害を与えたものであるから、被告政司は、商法二六六条ノ三第一項に基づき原告らに対して損害賠償責任を負う。

(三)  被告平田の責任

被告平田は、被告山久の取締役として、代表取締役や取締役による業務遂行を、取締役会を通じて監視し、不正な業務執行を阻止すべき任務を有するものでありながら、重大な過失によりこれを懈怠して、業務執行の意思決定及びその遂行を被告一郎らに任せきりにしていたものであり、よって、被告一郎らの本件住宅ローン保証保険詐欺により、原告らに損害を与えたものであるから、商法二六六条ノ三第一項に基づく責任を負う。

(四)  被告赤川及び同榎本の責任

被告赤川及び同榎本は、いずれも、昭和五三年頃から被告山久の従業員となり、被告一郎らと共謀のうえ、本件住宅ローン保証保険詐欺を遂行すべく、主として本件各土地の販売活動を担当したものである。

よって、被告赤川及び同榎本は、いずれも、民法七〇九条に基づき原告らに対し、損害賠償責任を負う。

(五)  被告渡辺の責任

被告渡辺は、被告山久(資本金一億円以下の株式会社)の監査役として、会計監査をなし、又、必要に応じて会社の業務及び財産の状況を調査する権限を有するものであるから、右権限の行使によって、同社の代表取締役らの不正な業務遂行を職務上監視すべき任務を有するものでありながら、重大な過失によりこれを懈怠して、監査役としての職務を全く行わず、よって、被告一郎らの本件住宅ローン保証保険詐欺を発見して原告らに対する損害の発生を阻止するを得なかったものであるから、商法二八〇条、二六六条ノ三第一項に基づく責任を負う。

(六)  被告山久の責任

被告山久は、被告一郎及び同政司がその取締役として、被告赤川及び同榎本がその従業員として、それぞれ被告山久の不動産取引事業の執行につき本件住宅ローン保証保険詐欺をなし、もって、原告らに損害を与えたものであるから、原告らに対し、被告一郎及び同政司につき、民法四四条一項、被告赤川及び同榎本につき、同法七一五条一項に基づく損害賠償責任を負う。

7. よって、原告らは、被告らに対し、被告山久に対しては、民法四四条一項ないし同法七一五条一項に基づき、被告一郎、同赤川及び同榎本に対しては、同法七〇九条に基づき、被告政司に対しては、同法七〇九条又は商法二六六条ノ三第一項に基づき、被告平田に対しては、商法二六六条ノ三第一項に基づき、被告渡辺に対しては、同法二八〇条、二六六条ノ三第一項に基づき、それぞれ、別表1の(ア)欄記載の金員及びいずれもその内金である(イ)、(ウ)各欄記載の各金員に対する同各欄記載の年月日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1. (被告山久、同一郎、同政司及び同渡辺(あわせて、以下「被告山久ら四名」という。))請求原因1の事実は認める。

(被告平田)同1(一)、(二)(1)の事実は認める。同1(二)(2)については、アないしウ、カの事実は認め、エ、オのうち、被告赤川及び同榎本が、昭和五四年八月二五日被告山久の取締役に就任したことは認めるが、昭和五三年四月頃被告山久に入社したことは否認する。

(被告赤川)同1(一)の事実は認め、同1(二)(1)の事実は知らない。同1(二)(2)については、アないしウ、オ、カの事実は知らず、エのうち、被告赤川が、昭和五四年八月二五日、被告山久の取締役に就任したことは認めるが、昭和五三年四月頃、被告山久に入社したことは否認する。

(被告榎本)同1(一)の事実は認め、同1(二)(1)の事実は知らない。同1(二)(2)については、アないしエ、カの事実は知らず、オのうち、被告榎本が、昭和五四年八月二五日、被告山久の取締役に就任したことは認めるが、昭和五三年四月頃、被告山久に入社したことは否認する。

2. (被告山久ら四名)同2の事実中、2(二)(3)の事実は認め、その余は知らない。

(被告平田、同赤川及び榎本)同2の事実は知らない。

3. (被告山久ら四名及び同平田)同3の事実中、被告山久が、本件各土地を、原告ら主張の頃、分譲したこと、本件各土地について、必ずしも関係法規、条例等の公法的諸規制に基づく造成をしなかったものもあること、相銀住宅ローン社の担当者が、別表記載のとおり、順次に、融資を内定し、実行したことは認め、その余は否認する。

(被告山久ら四名)

住宅用として適性な土地とは、要するに、住宅の用に供することができる土地という意味であって、右は、必ずしも関係法規、条例等の公法的諸規制に従った宅地に限られる訳ではないし、地目が宅地である必要もない。又、本件住宅ローン保証保険契約においては、山林のままであっても、被告山久が施した程度の造成工事をなせば、住宅ローン融資も可能である旨の合意があった。

(被告平田)

宅地には、公的に規制された宅地と、そうでない宅地とがある。本件各土地は、必ずしも、関係諸法規、条例等の公的規制には従っていないが、建物が建てられるものであるから、後者の意味では宅地である。相銀住宅ローン社は、本件各土地を、後者の意味における宅地として取り扱い、融資を実行したものである。

(被告山久ら四名及び同平田)

本件各土地の分譲に先立ち、被告山久は、昭和五三年七月一〇日頃から、本件各土地の草刈、樹木の伐採を、同年九月一日から材木の搬出を行い、更に、熱田組の熱田三郎に対し、本件土地の造成工事を請け負わせ、同人は、右請負契約に基づき、同年一〇月一〇日頃から仮設工事、土留工事、柵渠工事、道路工事、排水工事等の工事をなし、昭和五四年一月末日頃、工事を完成した。右工事中においては、昭和五三年一一月二五日、千葉相互銀行多古支店次長古関某、相銀住宅ローン社取締役本店営業部部長芳實、同融資部審査役船橋威夫、同業務部長代理古澤正恵らが現地に赴き調査し、土留工事等について具体的に指示したのを始め、昭和五四年一月末頃まで、相銀住宅ローン社の担当者が、数回にわたり、現地を確認し、工事について指示をなし、最終的には、工事の完成を確認したうえで、住宅ローン融資の対象土地として承認したものである。

(被告赤川及び同榎本)同3の事実は否認する。

4. (被告山久ら四名)同4(一)の事実は認める。同4(二)の事実中、原告東京海上において、原告らを代表して、相銀住宅ローン社に対し、本件保険金を支払った事実は認める。

(被告平田、同赤川及び同榎本)同4の事実は知らない。

5. (被告ら)同5の事実は否認する。

6. (被告山久ら四名及び同平田)同6の事実は否認ないし争う。

(被告平田)被告平田は、非常勤取締役であるから、被告山久の通常の営業行為である本件各取引行為について、取締役としての責任を負うものではない。

(被告赤川及び同榎本)同6(四)の事実は否認する。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因1(当事者)のうち、同(一)(原告ら)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、同(二)(1)、(2)(被告ら)の事実を認めることができる(右のうち、被告赤川及び同榎本の地位についての事を除くその余の事実は、原告らと被告山久ら四名及び被告平田との間では争いがなく、被告赤川が取締役に就任した事実は、被告榎本を除く被告らと原告らとの間で、被告榎本が取締役に就任した事実は被告赤川を除く被告らと原告らとの間でそれぞれ争いがない。)。被告赤川及び同榎本が被告山久に入社した時期に関して、被告一郎本人尋問の結果中には、同被告らが本件各土地の分譲当時においては被告山久の従業員であったことを疑わせしめるような供述部分もあるけれども、該部分は、あいまいであるうえ、同被告本人尋問の結果中の他の供述部分及び被告平田本人尋問の結果(但し一部)に照らして採ることができないし、前掲甲第三四号証の一五、一七、第三五号証の九、一〇(同被告らの履歴書)には、同被告らの被告山久への入社が昭和五四年八月であったかのような記載部分もあるが、右記載部分は、当初昭和五三年四月又は四月一五日として記載されていた入社時期の記載を訂正したものであることが認められることからしてにわかに措信することができず、同様に、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三五号証の一五(原告らと被告山久ら四名との間では成立に争いがない。)中の同被告らの入社時期についての記載もにわかに措信することができず、他に同被告らが昭和五三年四月頃から被告山久の従業員であったとの認定を覆すに足りる証拠はない。

二、次に、<証拠>によれば、請求原因2(住宅ローン保証保険及びその運営)の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

三、そこで、原告らの主張する被告らの詐欺による不法行為のうち、被告一郎の不法行為について判断する。

1. まず、住宅ローン保証保険付住宅ローンの融資対象となる購入土地の制限について検討するのに、成立に争いのない乙第五号証及び証人熊谷の証言によれば、一般に、又、原告ら及び相銀住宅ローン社の取扱においても、住宅ローン保証保険付住宅ローンの融資対象となる購入土地は、「住宅用として適性な土地」であることが要件とされていることが認められる。

そこで、右「住宅用として適性な土地」の意味について考えるのに、<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(一)  住宅ローン保証保険付住宅ローンにおいては、融資対象者は、引き続き三年以上同一勤務先に勤務しているか又は同一事業を営み、一定額以上の収入を有する給与所得者又は事業所得者たる個人(以下「対象給与所得者等」という。)に限るものとされているほか、土地購入のための資金の融資の場合、融資対象土地は、対象給与所得者等又はその家族が居住し、かつ、右個人が所有するために購入する土地で、近い将来(五年以内)住宅を新築し、居住する予定のあるものに限るものとされ、従って、別荘等常時居住しない建物又はそのための土地等は除かれ、又、登記簿上の地目が山林、原野、田又は畑であるものについてはいずれも宅地転用許可済のものに限るものとされていること、

(二)  そもそも、住宅ローン保証保険付住宅ローンの制度は、国の住宅建設推進政策の実施とあいまって、一般の給与所得者等が、自己及び家族の居住用土地建物の購入資金の利用制度として民間金融機関から融資を受ける途を拡大すべく、昭和四六年一一月創設された保険による信用補完の制度であること、

(三)  金融機関及び保険会社にとって、対象土地上に現実に債務者が自宅居住用の家屋を建てて居住することができるか否かは、住宅ローン債務者の支払意思の判断にかかわる重要な要素であること、

(四)  尤も、住宅ローン保証保険付住宅ローンの運用において、実際には、ときに、土地の宅地適性までは十分な審査がされていないことが認められるけれども、右は、迅速、簡易、かつ、画一的な書面審査を原則とする該制度上、ある程度不可避のことといわざるを得ないし、むしろ、右のように、融資審査手続を簡素化した住宅ローン保証保険付住宅ローンの制度自体、一般の給与所得者等が自宅居住用の土地建物を購入するにあたっては、通常、自ら同土地の宅地としての適性についての慎重な調査と判断をなすものであるとの経験則を前提とし、これを期待している面があること。

以上の事実によれば、一般に、又、原告ら及び相銀住宅ローンの取扱において、住宅ローン保証保険付住宅ローンの対象となりうる土地は、平均的な給与所得者等が、極めて近い将来、該土地上に住居を建築し、日常生活を営むために必要な諸条件を具備し、社会通念上、自宅居住用の土地となすに適していると判断される土地(登記簿上の地目や宅地開発等に関する公法的諸規制の履践状況も判断の要素とはなる。)に限定されているものであって、「住宅用として適性な土地」とは、右のような土地をさしていることは明らかである。被告一郎本人尋問の結果中には、当時、相銀住宅ローン社及び原告らにおいて、宅地造成をしない山林のままの分譲であっても、住宅ローン融資及び住宅ローン保証保険契約の締結に応じていた例があり、本件各保険契約の締結に際しても、相銀住宅ローン社の担当者はそのような山林のままの分譲に対する融資及び保険契約の締結に応ずる意向を示していたとの供述部分があるが、該供述部分は、具体性を欠くうえ、証人岡、同熊谷の各証言に照らし、措信することができず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

2. 次に、<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告山久(当時の代表取締役被告政司)は本件購入者らに対し、昭和五三年一〇月頃から五四年二月頃までにかけて、本件各土地を販売したものであり(以下「本件各土地分譲」という。)、右販売は、主として、被告一郎、同赤川及び同榎本がこれを担当していたこと、

(二)  被告一郎は、昭和五三年六月頃、本件各土地を購入したうえ、本件各土地分譲に先立ち、同年夏頃、相銀住宅ローン社取締役本店営業部長である岡芳實(以下「岡営業部長」という。)に対して近く分譲する予定のある本件各土地についての住宅ローン保証保険付住宅ローンの申込先として相銀住宅ローン社を紹介させてほしい旨交渉していた(いわゆるローン付けの交渉)が、過去の取引実績がないため、同部長の確答を得られずにいるまま、本件各土地の分譲を開始し、昭和五三年一一月頃から翌五四年三月頃までにかけて、本件購入者らをして、相銀住宅ローン社に対する住宅ローン及び原告らに対する住宅ローン保証保険の各申込書を作成させ、自ら右各申込書及び申込に必要な書類を取りまとめて、千葉相互銀行多古支店を相銀住宅ローン社の窓口支店として提出し、もって、本件購入者らの住宅ローン保証保険付住宅ローンの申込をなしたこと、

(三)  住宅ローン保証保険付住宅ローンの制度上、金融機関が融資実行を決定するための審査は、書類審査のみによるのが原則であるが、本件各土地が一団の造成分譲地であり、住宅ローン融資申込の件数も多かったこと、本件各土地は、いずれも登記簿上の地目が山林ないし原野であって、これを宅地造成して分譲して融資の実行を得ようとするものであったことなどから、本件各融資及び保険契約の申込を受けた相銀住宅ローン社の担当者らは、現地を見たほうがよいと判断し、昭和五三年一二月九日、岡営業部長、融資部審査役船橋威夫(以下「船橋審査役」という。)及び業務部部長代理古沢正恵ら三名が現地に赴き、被告一郎の案内をうけて、本件各土地の状態を視察するとともに、本件各土地について被告山久が熱田組こと熱田三郎に請け負わせて行っていた造成工事(以下「本件工事」という。)の進行について被告一郎の説明を受けたものであるが、当時、本件各土地は、未だブルドーザーが土地を切り開き始めた程度であり、土留工事には着手していない状況であったものの、被告一郎が、右三名に対し、現在宅地造成工事の途中である旨説明したため、同人らは、本件各土地はほどなく宅地適性地となるものと信じ、右工事については、本件各土地の北方の県道から同各土地への進入路として工事中の道路(以下「県道からの進入路」という。)の幅をより広くすべきこと、本件各土地の急傾斜地部分においては土留工事を厳重になすべきこと、排水施設をその端末処理を含め確実になすべきこと等を指摘するにとどめ、被告一郎は、これを了解したこと、その後、翌五四年一月中旬頃、船橋審査役が、再度、本件各土地に赴いたが、その際も、前回よりも多少工事は進んでいたとはいえ、未だ造成が完成していなかったこと、

(四)  その後は、相銀住宅ローン社の担当者において現地に赴き前記工事の進捗状況をみることはなかったが、しかし、すでに本件各土地について住宅ローン保証保険付住宅ローンの申込がなされていたことや、被告一郎の現場における説明及びその後の右住宅ローン融資実行の催促、現地訪問後の期間の経過等からして、岡営業部長を始めとする相銀住宅ローン社の担当者及び本件住宅ローン保証保険付住宅ローンの決裁権者である長野次長は、昭和五四年二月中旬頃には、本件各土地が宅地適性地となったものと判断するに至り、同月中旬頃から三月下旬頃までの間に、別表3の融資内定日欄記載の日に同融資額欄記載の金員の本件各住宅ローンの融資を内定し、同年三月上旬から四月中旬頃までの間に、同融資実行日欄記載の日に、右各内定にかかる融資を実行し、その結果、覚書の規定に従い、原告らは、本件各住宅ローンについて、自動的に、右各住宅ローン融資実行の日である別表4の契約締結年月日欄記載の日に、同保険金額欄記載の額の住宅ローン保証保険を引き受け、相銀住宅ローン社に対して、各保険金支払債務を負担したこと。

被告一郎本人尋問の結果中には、相銀住宅ローン社の担当者は本件工事の途中、三回にわたり現地を訪れ、最終的には、昭和五四年一月末日頃、岡営業部長が訪れて工事の完成を確認し、その際、本件各土地が当時の現況において融資対象土地としての要件を満たしていることを表明した旨の供述部分があるが、該供述部分は、あいまいで、変遷を重ねており、それ自体信用性が乏しいものであるうえ、これと異趣旨の証人岡の証言に照らしてもにわかに措信することができない。そして、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

3. そこで、本件各土地が本件各住宅ローンの融資実行当時(即ち本件住宅ローン保証保険契約締結の当時)、宅地適性地であったかどうかについてみるのに、<証拠>によれば、次の事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件各土地には、当時から現在まで、各区画はもちろん、右各土地により形成される一団の造成地(以下「本件造成地」。)までも公共上水道の配管がなされておらず、かつ、これにかわるものとしての井戸を水源とする生活用給水設備も全く存在せず、日常生活上不可欠の水利を全く欠いていること、

(二)  本件造成地には、当時から現在まで、電柱架線は全く存在せず、周辺の給電設備末端までの距離が遠いのにもかかわらず、電力会社との間の工事費用負担金契約(通称団地契約)も締結されておらず、電力の利用が不可能な状態であること、

(三)  本件造成地に被告山久の設置した雨水排水設備としては、道路のごく一部にU字溝があるのみで、それも県道からの進入路部分の地下ヒユーム管端末で突然途切れ、放流先がなく、結局、本件造成地は、有効な雨水排水設備を有しないものであり、又、生活排水、汚水等の処理排出設備は一切存在しないものであること、

(四)  被告山久の造成にかかる県道からの進入路は、未舗装で、路面は両側面とも約一・〇ないし一・三メートル(昭和六〇年初め頃の測定値。以下同じ。)の落差のある盛土上にあり、幅員は、盛土底部で約三・八メートル、盛土上の有効幅員は約二メートルと狭いうえに、約二二度もの急勾配であって、登坂能力の限界ということからみて、通常の乗用車により本件造成地に進入することは極めて困難であり、又、住宅の建築工事用に不可欠の二トントラックは進入できないものといわざるを得ないものであり、他に本件造成地に至る道路としては、幅員約一・八メートル程度の農道があるのみであること、

(五)  本件造成地内各区画地に生じた法面については、擁壁工事がなされず、又は極めて不完全であって、一部に宅地造成の土留工事としては不適切な組立土留工事がなされているが、それも現在すでに崩壊しあるいはそれの虞れがある等、危険な状態におかれていること、

(六)  本件造成地内の道路は、殆どが行き止まりとなり連続性を欠いているうえ、道路に適切な路盤工事が施されておらず、道路の法面ないし道路に接した崖面に、防護施設が設けられていないこと等のために、路肩の崩壊等が進行していること、

(七)  本件各土地について宅地造成工事をなす場合は、右事業は、昭和四四年一〇月一五日千葉県条例第五〇号「宅地開発事業の基準に関する条例」(以下「宅地開発条例」という。)の適用を受ける一団の土地に係る宅地開発事業(宅地開発条例三条)に該当するものであるから、事業主は、あらかじめ、造成工事の設計が右条例の定める基準に適合することについて、知事の確認を受け、その基準に適合するように宅地造成工事をしなくてはならない(同条例七条)ところ、被告山久は右確認を受けていないうえ、(一)ないし(六)認定の工事状況は、右基準に適合しないものであること、同様に、本件各土地が所在する松尾町の同町宅地開発事業に関する指導要綱に定める同町長との事前協議もなしていないこと、

(八)  被告一郎は、本件各土地の工事をなすにあたり、本件各土地について、宅地ではなく、あくまで山林の分譲であるから、前記(七)の確認等は必要がないと考えていたものであり、本件各土地の工事中、地元の松尾町が、該工事は宅地造成工事であるか否か確認したのに対しても、宅地開発ではなく、植林のための整地であり、杉苗を移植するものである旨回答したこと、

以上の事実からすれば、本件各土地は、本件各住宅ローン融資実行当時、平均的な給与所得者らが、直ちにあるいは極めて近い将来、該土地上に住居を建築しそこで日常生活を営むために必要な諸条件を具備し、社会通念上、自宅居住用の土地となすに適していると判断される土地即ち宅地適性地であるとは到底いえないものであったというほかはない。

4. そして、前記3認定の事実からすれば、被告一郎は本件各土地について、本件各融資の実行当時、これが宅地ではなかったことを認識していたことはもちろん、当初からこれを宅地とする意思はなかったものであることを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。又、前記一、三2認定の事実によれば、被告一郎は、住宅ローン保証保険付住宅ローンにおいては、宅地適性地であることが融資の要件であること及び金融機関が融資を決定した住宅ローンについては保険会社において自動的に住宅ローン保証保険を引き受けるものであることを知っていたこともまたこれを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

5. 以上認定の事実からすれば、被告一郎は、住宅ローン保証保険付住宅ローンの適用対象となる土地は宅地適性地に限られること及び住宅ローン融資の実行がなされるときには、同時に、原告らを保険者とする住宅ローン保証保険契約も締結されることを知りながら、真実は、本件各土地を宅地適性地とする意思を有しなかったのにかかわらず、前記2認定のとおり、本件購入者らをして、住宅ローン及び住宅ローン保証保険の各申込書を作成させ、自ら右各申込書及び申込に必要な書類を取りまとめ、本件各土地が極めて近い将来において宅地適性地となるように装いながら、これを相銀住宅ローン社に右購入者らのために提出して、相銀住宅ローン社の担当者及び決裁権者である本店営業部の長野次長をして、本件各土地が現に宅地適性地であるか、又は、近い将来宅地適性地となる土地であるものと誤信させ、さらに、現地に赴いた相銀住宅ローン社の担当者らに対し、近く宅地造成工事が完成するものの如くに装って、同担当者ら及び前記決裁権者である長野次長をしてその旨誤信させ、もって、本件各住宅ローンの融資を実行させ、その結果、原告らは、本件各保険契約を締結し、相銀住宅ローン社に対して保険金支払債務を負担するに至ったものであるということができる。

6. 進んで、損害の発生について検討するのに、<証拠>によれば、本件購入者らは、本件各住宅ローン融資契約に基づく債務の支払を、別表3の支払遅滞日欄記載の日以降怠り、同期限の利益喪失日欄記載の日において、期限の利益を喪失したため、原告らは、相銀住宅ローン社との間の約定に基づき、幹事会社たる原告東京海上において、原告らを代表して、相銀住宅ローン社に対し、別表5の支払総額欄記載の金員の支払をなしたものであることが認められ、右各事実によれば、原告らは、あわせて右支払総額欄記載の金員の合計七三〇三万九一七四円の損害を被ったことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。これに別表2記載の分担割合をそれぞれ乗ずれば、各原告の被った損害(小数点以下切捨て)は、別表6(各原告負担代金一覧表)記載のとおりであると認められる。そして、本件購入者らは、一一名のうち三名がローン返済金を一回分のみ支払い、他の者は一回も支払っていないのであって、このように本件購入者らの住宅ローン不払が、本件各融資実行後極めて初期のうちに一斉に発生していることからすれば、右不払が同人らの支払能力の欠缺に起因するものとは考え難く、むしろ本件各土地が宅地適性地でなかったことによるものと推認される。従って、被告一郎の欺罔行為と右損害発生の間には相当因果関係があるものというべきであり、又、本件欺罔行為により原告らに前記損害が発生することを予見し又は予見すべきであったものというべきである。

7. よって、被告一郎は、民法七〇九条に基づき、原告らに対し、前記損害を賠償する責任を負うものということができる。

四、次に、被告政司について、右不法行為責任の成否についてみるのに、被告政司が、本件各土地の分譲ないし本件各保険契約の締結の当時、被告山久の代表取締役であったことは、前記一認定のとおりであり、前掲甲第六号証の一ないし一一によれば、本件各土地の分譲においても、被告政司の代表取締役としての記名押印により契約が締結されていることが認められるが、他方、被告一郎本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告政司は、被告一郎の次男であって、被告山久の業務は被告一郎に任せて、自らはこれに携わらなかったものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そうであるとすれば、同被告について、被告一郎とともに、又はこれと共謀して、前記の不法行為をなしたものとして民法七〇九条による責任を問うことはできない。

しかし、株式会社の代表取締役は、善良なる管理者の注意をもって会社のため忠実にその職務を執行し、他の取締役その他の者の職務執行の全般にわたってこれを監視し、会社業務の執行が適性に行われるように意を用いる義務があるものと解すべきところ、被告政司は、代表取締役の地位にありながら、被告一郎その他の者に被告山久の会社業務の一切を任せきりにし、その業務執行に携わることも他の取締役等の職務執行を監視することもなく、会社の経営を放置していたため、ひいて右被告一郎の本件住宅ローン保証保険詐欺を看過するに至ったものということができるから、被告政司は、代表取締役としての職務上の義務に違反したものであり、かつ、その任務懈怠の程度は重大であるというべきであり、従って、職務を行うにつき重大な過失があったものとして、原告らが被告一郎の不法行為により受けた損害について、原告らに対し、被告一郎と連帯して、商法二六六条ノ三第一項に基づく損害賠償の責任を負うものというべきである。

五、次に、被告平田の責任についてみるのに、被告平田が、昭和五三年五月、被告山久の取締役に就任したことは前記一で認定したとおりであり、被告一郎及び同平田(いずれも一部)の各本人尋問の結果によれば、被告平田は、被告一郎の依頼を受けて、被告山久の取締役に就任し、以後昭和五九年五月頃まではほぼ継続して右取締役の地位にあったものであるが、当初から、被告山久に常勤することなく、その経営に深く関与することのない、いわゆる社外重役として就任したものであり、同社の取締役会に出席したこともなければ自らこれを招集することもなく(被告平田の在任中、被告山久においては、取締役会の開催はなかった。)、被告山久の業務の執行を被告一郎の専横に任せていたものであるところ、就任後一年の間に、被告一郎による本件各土地の分譲及び本件住宅ローン保証保険詐欺がなされるに至ったものであることが認められる。

しかし、株式会社の取締役は、会社の業務執行が適正になされるべく、他の取締役らの職務執行を監視し、必要があれば自ら取締役会を招集するか、又は、招集権者に対しその招集を求めて、取締役会を通じて右業務の執行が適正になされるようにすべき職務上の義務があるものと解すべきであって、このことは、いわゆる社外重役であっても別異に扱う理由はないというべきであるから、右認定事実のもとにおいては、被告平田は、右職務上の義務を怠り、かつ、これについて重大な過失があったものといわざるを得ない。そして、被告一郎本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により認められる、被告山久が本件各土地を購入したのが昭和五三年六月であって、当時すでに、被告一郎は、右各土地を分譲する計画を有していたものであること、右分譲及びそのための住宅ローン保証保険付住宅ローンに関する交渉等は、不動産取引を業とする被告山久の本来の業務に属するものであるうえ、右分譲は、被告山久が従前扱った取引の内でも大規模なものに属したことなどの事実からすれば、被告平田は、被告一郎の本件住宅ローン保証保険詐欺の意図について、当時、知り又は容易に知り得べきものであったということができるうえ、<証拠>によれば、被告平田は、非常勤とはいえ、被告山久の経理、税務上の相談等に応じてきたものであり、被告山久の新宿の営業所を訪れることもあったこと、被告一郎の本件住宅ローン保証保険詐欺による不法行為の後であるとはいえ、昭和五五年頃には、被告山久の宅建業法上の免許申請書、昭和五一年三月一日から昭和五四年二月二八日までの各事業年度の納税申告書及びその添付財務諸表等を作成するなどしていること、被告平田は、取締役として、全く無報酬であったわけではないこと等が認められることからすれば、被告平田は、被告山久において、右職責を尽くして被告一郎による本件住宅ローン保証保険詐欺による不法行為を未然に防ぐことが可能な立場にあったものというべきであり、右認定を覆すに足りる証拠はない。従って、被告平田は、原告らが被告一郎の不法行為により受けた損害について、原告らに対し、被告一郎と連帯して、商法二六六条ノ三第一項に基づく損害賠償の責任を負うものというべきである。

六、進んで、被告赤川及び同榎本の責任についてみるのに、同被告らがいずれも昭和五三年四月頃から、被告山久の従業員であったこと、昭和五四年八月には、被告山久の取締役となったことは前記一認定のとおりである。しかしながら、被告赤川及び同榎本の両名が被告一郎と共謀して、本件欺罔行為をなしたことについては、本件全証拠によるもこれを認めることはできない。従って、右被告両名に対する原告らの請求は理由がない。

七、次に、被告渡辺が原告らに対し、商法二八〇条、二六六条ノ三第一項に基づく損害賠償責任を負うとの主張についてみるのに、同被告が、昭和四八年被告山久の設立以来、同社の監査役の地位にあったことは前記認定のとおりであり、被告一郎本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告渡辺は、単なる名目上の監査役であって、就任以来本件不法行為発生当時まで、監査役としての職務を何ら行っていなかったことが認められるけれども、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三六号証の六五(原告らと被告山久ら四名との間では成立について争いがない。)によれば、被告山久の資本の額は一〇〇万円であることが認められるところ、資本の額が一億円以下の株式会社においては、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律二五条により、商法二七四条、二七五条、二七五条ノ二の規定が排除されていることからすれば、被告渡辺は、被告山久の業務執行の適正を監査し、これを是正すべき職務上の義務を負担していなかったことは明らかである。従って、その余の点につき判断するまでもなく、原告らのこの点に関する主張は理由がない。

八、そして、前記一、三認定の事実からすれば、被告一郎の本件住宅ローン保証保険詐欺による不法行為は、不動産取引を業とする被告山久の取締役である被告一郎が、その職務を行うにつき原告らに損害を与えたものであることが明らかであるから、被告山久は、原告らに対し、被告一郎らの右不法行為について、民法四四条一項に基づき、損害賠償の責任を負うものというべきである。

九、結論

以上のとおりであって、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの本訴各請求は、被告山久、同一郎、同政司、同平田に対し、被告山久については民法四四条一項、被告一郎については民法七〇九条、被告政司及び同平田については商法二六六条ノ三第一項にそれぞれ基づき、各自、各原告に対し、別表1(ア)欄記載の金員及びいずれもその内金である(イ)、(ウ)各欄記載の各金員に対する不法行為の後である同各欄記載の年月日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 薦田茂正 裁判官 大橋弘 杉原麗)

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